IEC 60115-8改訂による変化

IEC 60115-8IEC※1が定める、表面実装用固定抵抗器に関する国際規格です。KOAをはじめ、多数の抵抗器メーカがカタログに掲載している、定格電力、公称抵抗値、抵抗値許容差、抵抗温度係数などの仕様は、この国際規格に基づいて試験され、定められています。

20238月にこのIEC 60115-8第3版(Edition3)として改訂され、抵抗器の定格電力を定める基準温度の考え方が大きく変更されました。KOAがこれまで提唱してきた端子部温度規定2の考え方が本規格に取り入れられました。KOAは端子部温度規定の提唱者として、また、日本の抵抗器メーカを代表する1社として、主導的な立場でこの規格改訂に参画しました。

 

今回の改訂によるお客様のメリットは次の二項目です。

 

1)表面実装抵抗器では、ユーザ側で抵抗器使用時の端子部温度を把握頂くことで、抵抗器をより安全にご使用いた

  だけるようになります。

2)最新の冷却技術を用いて表面実装抵抗器を適切に放熱することで、高電力抵抗器を省スペースでご使用できるよ

  うになります。

 

※1 IEC International Electrotechnical Commission国際電気標準会議)は、世界の89か国が参加する電子機器

   や電子部品の標準化を行う組織です。IEC規格は全世界で適用される国際規格であり、各国が定める国家規格

   (日本場合はJIS)はIEC規格に整合することが求められます。これまでのIEC 60115シリーズでは、国際規

   の改訂から概ね2年後に対応するJISが発行されています

※2 端子部温度規定はKOAの造語であり、2012年から抵抗器業界、電子機器業界に提案していた「表面実装抵抗

   器の使用温度の基準を周囲空間の温度から抵抗器の端子部(フィレット中央)に変更する」考え方です。

 

ご注意!

本解説はIEC 60115-8 第3版に適合している抵抗器の場合に限ります

KOAは適合しています

表面実装抵抗器をより安全にご使用いただけるようになります

規格改訂によって、抵抗器メーカが定格電力を保証するために実施する、高温環境における定格電力印加試験時の端子部温度を抵抗器ユーザが知ることができるようになりました。

本解説では、この試験時の端子部温度定格端子部温度と呼ぶことにします。

改訂前の規格では、定格端子部温度は公表されていませんでした。抵抗器ユーザは、抵抗器が使用されている環境が抵抗器メーカの試験状況に対してどれだけマージンを持っているのか、あるいは厳しいのか、明確に知る方法はありませんでした。規格改訂により、定格端子部温度は原則125℃に統一され、その結果、図1に示すように、表面実装抵抗器をより安全にご使用いただけるようになりました。

最新の冷却技術を用いると表面実装抵抗器を高定格電力で利用できるようになります

近年、プリント基板の放熱能力を増すために、プリント基板の裏面をTIMThermal Interface Materialを介して直接水冷された筐体などに熱結合させる筐体放熱の実装形態が見られるようになりました。このような冷却方式を用いると、表面実装抵抗器に大電力を消費させても端子部の温度および抵抗器全体の温度は低く保たれます。

2は第3版の規格の附属書GAnnex G)で説明された冷却方式の例です。このような高放熱環境を想定した高定格電力の抵抗器では抵抗器の使用可否判断に周囲温度は意味を成さず、端子部温度のみが使用可否判断の基準となります。

抵抗器の使用環境を周囲温度のみで考えるという改訂前までの温度管理の方法によって、高定格電力の長辺電極タイプ抵抗器の使用可否を判断した場合の危険性についても、附属書Gに掲載されています。

定格端子部温度の求め方

定格端子部温度は原則的に125℃

本規格改訂により決定された、定格端子部温度が125※4の時の定格電力とサイズの関係を抵抗器のタイプ別に表1に示します。

この表の抵抗器タイプとサイズに対する定格電力は、IECの委員により「現在(規格が改訂された20192023年)のトレンドである」と合意された値が採用されています。

ご注意!

定格端子部温度125℃の意味は、抵抗器メーカが定格電力を保証する試験において、端子部温度が125℃になる試験基板を使用したということを意味します。お客様が使用する基板において、表1の電力を印加した場合に端子部温度が125℃になるという意味ではありませんのでご注意ください。定格電力を印加してご使用になる場合には、お客様の設計時に、抵抗器の端子部温度が125℃以下になる様に熱設計をしていただくことが必要です。

定格電力は同じ抵抗器タイプ・サイズでも変化し、定格端子部温度も変化する

定格電力は抵抗器ユーザの要求により、また、技術の進歩により上昇してきました。同じ抵抗器タイプ・サイズでも、表1に示した定格電力以外の定格電力が定められている製品もあります。そのような製品の定格端子部温度を知る方法は二つあり、今回の改訂により追加された附属書FAnnex Fに掲載されています。

 

①横軸を端子部温度で表わした負荷軽減曲線から読み取る

抵抗器メーカより図4に示すような横軸を端子部温度で表わした負荷軽減曲線が提示されている場合は、抵抗器ユーザはこの負荷軽減曲線より定格端子部温度を読み取ることができます。例えば図4のような負荷軽減曲線が示されていた場合には、負荷軽減が始まる折れ点の端子部温度である135℃がこの抵抗器の定格端子部温度です。

KOAでは、端子部温度規定の考え方を明確にお伝えするために、今回の規格改訂が行われる前から、IEC 60115-8の対象となる表面実装抵抗器の全品種に対して図4のような横軸を端子部温度で表わした負荷軽減曲線を提示させていただいております。

②附属書Fに記載されているグラフから読み取る

1に記載されている以外の定格電力が仕様化されている抵抗器の場合には、規格から定格端子部温度を読み取ることができます。IEC 60115-8の第3版の附属書 Fには、抵抗器タイプ・サイズごとに図5のようなグラフが掲載されています。横軸が抵抗器への印加電力であり、縦軸が定格端子部温度を示しています。

なお、定格端子部温度の概略値であれば、規格のグラフを使用しなくても、表1に記載された定格電力と次の式を用いて算出可能です。

なぜ抵抗体温度ではなく端子部温度なのか

この理由は改訂版の附属書Fに記載されています。図6は同じ2012mmサイズで、抵抗体の形が異なる2種類の抵抗器を同じプリント基板に実装し、同じ電力を加えた場合の、抵抗器各部の温度をシミュレーションしたものです。抵抗体の一方は一様な膜状であり、もう一方は、膜の中央に抵抗値調整のスリット(抵抗体を削り取った部分)があります。

2種の抵抗器の温度分布のグラフを見ると、抵抗上面の温度分布と抵抗内部の最も高温となる部分(ホットスポットと呼んでいます)は全く異なっていますが、端子部温度は同一であることが分かります。このように、端子部温度は抵抗器の構造の影響をほとんど受けないので、規格として温度管理部位に適しています。

また、温度を測定するという面からも表面温度やホットスポットよりも端子部温度の方が適しています。端子部温度であれば、筐体内部の基板上に抵抗器が実装されていても、熱電対などにより測定可能です。しかし、表面温度は解像度の高い赤外線サーモグラフを使って見通し内でなければ測定できませんし、ホットスポット温度はシミュレーションで予測する以外に知る方法はありません。

端子部温度重視の背景(高電力・使用環境の多様化)

近年の表面実装抵抗器の定格アップの変遷

今回の改訂は表面実装抵抗器の高電力化と使用環境の多様性に対応するために実施されました。図7に示すとおり、1980年代から普及した表面実装抵抗器は、ここ数年で急速に定格電力がアップしました。その要因としましては、抵抗器が実装されるプリント基板の放熱能力が多層化などにより向上したことがあげられます。

表面実装抵抗器の温度は、実装されるプリント基板の放熱性で決定されます。多層基板などの高放熱基板に実装された抵抗器は、同一電力を加えた場合、片面のプリント基板に実装された抵抗器よりもはるかに低い温度になります。多層基板で使用される抵抗器に対して、従来の低い定格電力を上限とするのは不合理です。プリント基板の高放熱化に合わせ、定格電力は上昇の一途です。一方で、多層基板などの高放熱環境を想定して高定格電力が設定された抵抗器を、放熱能力の低い片面基板などで定格電力を印加して使用すると、温度が上がりすぎてしまう事があり危険です。「定格電力の50%で使用していれば安全」は、過去の考え方になりました。実装される基板にかかわらず、抵抗器ユーザに安全に表面実装抵抗器をご使用いただくための、適切な温度管理の方法が求められていました。

その解決策が端子部温度規定です。

使用環境の多様化・集合実装の例

近年、表面実装抵抗器を多数配列して使用するようなアプリケーションも見られます。図8のように定格電力1W6432mmサイズの抵抗器を多数配列し、周囲温度25℃環境で定格電力を印加し30分間放置しました。その結果、横軸が周囲温度の負荷軽減曲線内での使用にもかかわらず、抵抗器は焼損しました。

従来通りの周囲温度を横軸とした負荷軽減曲線は、使用可否判断には使用できない可能性があることが分かります。冒頭にご説明した筐体放熱もその一例です。これらの不具合を防止するために、端子部温度規定の考え方を規格に盛り込む必要があったのです。