KOAの技術

端子部温度規定とは

背景

昨今、車載機器を中心に、電子機器の小型化、高電力密度化、使用環境の高温化が進み、抵抗器への高温対応のご要求が増えてま いりました。図1は横軸を端子部温度とした負荷軽減曲線であり、 そのような表面実装抵抗器に対するご要求を安全に実現するために提案されたものです。
定格端子部温度とは、定格電力を加えて連続使用できる表面実装抵抗器の端子部の温度の最高値であり、自己発熱による温度上昇分を含みます。

横軸が端子部温度の負荷軽減曲線は、金属板タイプの超低抵抗値の電流検出用抵抗器(PSシリーズなど)ではすでに採用されてい ます。このような抵抗器はインバータやコンバータなどの大電流の検出に使用され、近接したスイッチング素子からの熱や大電流 による銅パターンの発熱により、電流検出用抵抗器の端子部温度が周囲温度とはほぼ無関係に上昇するような環境で使用されることがほとんどです。

この考え方を一般の抵抗器にも展開しました。

※弊社技術顧問 国峰尚樹氏の熱設計に関する記事「今、開発現場で熱による手戻りが頻発している理由」が 
  12月16日、日経xTECHに掲載されました

  日経xTECH内の本記事掲載ページにリンクします。
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横軸が周囲温度の負荷軽減曲線の成立背景

JIS、IEC規格に定められた、従来の横軸が周囲温度の負荷軽減曲 線の考え方が成立したのは表面実装抵抗器が登場するはるか前、 真空管時代にさかのぼります。当時はプリント基板も無く、図2の ように、円筒形のリード付き抵抗器がラグ端子と呼ばれる端子に空中配線されていました。

抵抗器で発生したジュール熱は抵抗器の形状に関わらず三種の経路で放熱されます。一つ目は接触している端子などへの熱伝導で す。二つ目は自然対流や送風による空気への熱伝達を含めた対流です。三つ目は赤外線の放射です。熱伝導は抵抗器と接触している他の物体の面積が大きいほど多くなり、対流および放射は抵抗 器の表面積が大きいほど多くなります。

円筒形のリード付き抵抗器をラグ端子実装した場合、熱伝導の放熱の経路であるリード線は細く長いため、熱抵抗が高く放熱はよくありません。これに対して対流と放射は面積が広いため放 熱割合は熱伝導よりも大幅に増加します。シミュレーションで確 認しますと、円筒型のリード付き抵抗器の放熱は8割から9割が直接周囲空間に対して行われていることが分かります。抵抗器の温度は放熱先の温度に自己発熱による温度上昇を加えたものですので、抵抗器の使用環境温度の基準としては周囲空間の温度が最適であり、横軸が周囲温度の負荷軽減曲線がお客様に設計の指標と して提供されていました。

表面実装抵抗器の放熱経路

図3は現在の表面実装抵抗器の主たる放熱経路を模式的に示したものです。表面実装抵抗器は表面積が小さいため、対流と放射は行 われにくい構造になっています。これに対して、プリント基板パ ターンへは比較的広い面積で接続されるので、放熱のうち熱伝導 の割合が非常に高くなります。試算しますと、対流と放射をかな り多く見積もっても、放熱の割合は、端子部を通しての基板への 熱伝導が9割を占めます。それ故、表面実装抵抗器の温度管理は、 周囲温度よりも基板との接続点であり、熱の主たる通り道である 端子部の温度が重要になります。

表面実装抵抗器に適した負荷軽減曲線

図4の様に、抵抗器の温度は印加電力が同じならば周囲温度にかか わらず端子部温度を基準として同じ⊿Tだけ上昇します。抵抗器 表面から周囲空間への放熱はほとんど無いためです。

同じ周囲温度という環境下で同じ表面実装抵抗器に同じ電力を加 えても、抵抗器が実装されているプリント基板が異なれば温度は 同じになりません。端子部温度が変化してしまうからです。図5の 様に密集させた場合や他の発熱部品がある場合などは弊社で実施 するJIS、IEC規格に定められた周囲温度70℃での耐久性試験より も抵抗器が高温になる可能性もあります。

既存の、横軸が周囲温度の負荷軽減曲線は周囲温度70℃での耐久性試験に基づいて作成されています。お客様が抵抗器をご使用に なる場合、電力的、温度的にマージンを十分にとってご使用いた だいていれば問題は発生しないと考えられますが、昨今の小型化、高電力密度化、使用環境の高温化に伴い、お客様が機器設計 に際しマージンを削らざるを得ない状況になっていると推察します。合理的にマージンを削る方法が、今回ご提案する横軸が端子部温度の負荷軽減曲線の利用です。弊社では耐久性試験を端子部 温度が定格端子部温度(用語の意味参照)になる環境で実施し、その試験結果に基づき、表面実装抵抗器に適した負荷軽減曲線をご提供致します。

横軸が端子部温度の負荷軽減曲線の使い方

以下に横軸が端子部温度の負荷軽減曲線を利用し、合理的にマージンを削り、抵抗器使用個数の削減、あるいはより小さいサイズ への置き換えを行う具体例を示します。
前提条件は以下の通りです。なお、基板周囲温度が100℃の時に、必ずしも端子部温度が120℃になる訳ではありません。

① 基板周囲温度100℃
② 表面実装抵抗器の端子部温度120℃
③ 実負荷電力0.05W
④ お客様の内規によるマージン50%

横軸が周囲温度の負荷軽減曲線で、条件①③④より使用する抵抗 器の必要な定格電力を算出します。図6がその結果で、RK73Bですと、2Aサイズ1個もしくは1Eサイズ2個という判定になります。

既存の負荷軽減曲線での選定

端子部温度の負荷軽減曲線での選定

これに対して、条件②③④で新たに提案する横軸が端子部温度の負荷軽減曲線を用いて選定しますと、1Eサイズ1個で問題ないという結果になります。

このように横軸が端子部温度の負荷軽減曲線を活用する事により、無理なく抵抗器の使用個数を減らし、実装面積も縮小でき、コスト削減につながります。

同一形名で2つの定格電力がある製品について

表1の様に、表面実装抵抗器において、定格欄に同一形名に対して2段の定格電力が表示されている製品があります。高い定格電力は、基本的に多層基板であるとか、DCB(ダイレクトカッパーボンディング)基板であるとか、単層基板の場合には広い放熱面積を持ったランドを備えているなど、適切な放熱設計が施された基板に実装した場合に適用可能です。従いまして、高い定格電力の場合の負荷軽減曲線の横軸は端子部温度のみで規定されており、横軸を周囲温度で記載した従来の負荷軽減曲線はご使用できませんのでご注意願います。そのような製品の定格周囲温度欄には適用外という意味で“-”が記載されております。
なお、このような高定格電力を持った製品につきましては、弊社では端子部温度を特に管理した試験基板を用いて負荷寿命試験を実施しております。

【表1.定格電力が2つある製品の定格欄】

形名 定格電力 定格周囲温度 定格端子部温度

SG73S 2A
SG73P 2A

0.25W 70°C 125°C
0.5W 100°C

表1の場合の負荷軽減曲線は図8~図10の様に3本になります。

各負荷軽減曲線の使い分けは次のようになります。

0.25Wを定格電力とする場合

端子部温度が測定できる場合:
図8の負荷軽減曲線が使用可能であり、端子部温度125℃まで定格電力0.25Wでご使用いただけます。この横軸を端子部温度とした負荷軽減曲線は、従来の横軸を周囲温度とした負荷軽減曲線に優先します。従いまして、たとえ、周囲温度が100℃を超えていても、端子部温度が125℃以下であれば、定格電力0.25Wでご使用いただけます。
端子部温度を測定せず周囲温度のみ測定する場合:
従来からある図9の負荷軽減曲線により、周囲温度70℃以上から負荷電力を軽減してご使用いただけます。ただし、先述のご説明のとおり、抵抗器の温度は、同一周囲温度であっても配線パターンや周囲発熱部品により変化しますので、精度の良い負荷軽減方法ではありません。

0.5Wを定格電力とする場合

端子部温度を管理していただくことが0.5Wを定格電力とする条件になります。図10の端子部温度を横軸とした負荷軽減曲線しか使う事はできませんが、高電力まで保証できます。端子部温度100℃以下であれば0.5Wでご使用いただけます。

参考

(一社)電子情報技術産業協会の技術レポート「JEITA RCR-2114表面実装用固定抵抗器の負荷軽減曲線に関する考察」をご参照ください。

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